活動

2月8日パティオ北白川ルポ

当日の全展示作品を含めた完全版は5月より販売開始となる会誌『新京大俳句』創刊準備号にてご覧いただけます(オンラインデータ販売のリンクは当ページ最下部より飛ぶことができます(なお現在準備中))。

文:蒋草馬

プロローグ

早朝(それは午前7時半だった。自堕落な大学生諸君であればこれを早朝と表現することにはなんの異論もないだろう)、濱田春樹が僕の住むアパートのチャイムを鳴らした。夜更けまで続いた準備の勢いでけっきょく一睡もしなかった僕はちょうどシャワーを浴びたところだった。窓際の僕のシングルベッドには、毎朝五分おきに計25回鳴る自身の携帯のアラームを無視しながら、カジオ・ブランコが死んだように転がっていた。彼は朝の4時ごろに準備から脱落したのだった。ドアをひらくと自称冬の男(通称濱田春樹)と強い風、そして白が目に飛び込んできた。その朝は盛大に雪が積もっていた。ひゃあ、とかなんとか、どんなだったか忘れたが、僕はなにか叫び声をあげた。東京の海辺で育った身として、積もる雪を見るのは久しかった。

「この程度の雪でそんな反応を道民の前でしちゃったら、隙を与えちゃうよ?いいの?」隙を与えてしまったらしい。これだから道民は。

僕は窓際に転がっているカジオ・ブランコを叩き起こす役目を濱田春樹に託し、予約してあったカーシェアリングの車を出すことにした。雪まみれのハスラーをなんとか駐車場から出して家まで運転し、展示する諸々の荷物とともに二人を乗せる。僕らは一度カジオの家に寄って彼の家にあるぶんの荷物を取ったのち、白川通をまっすぐに進んでパティオ北白川へと向かった。

午前の部

 パティオ北白川というのは、KOSAKUSITUという大阪の柏原を活動拠点にしている建築デザイナーのユニットを中心としながら、建築関係の人々がリノベーションを行なっているアパートの名前である。それは鷺の森神社という社の境内を途中まで抜けて、見晴らしのいい小さな丘で曲がったそのふもとにあった。リノベーションの内容は現在住人が入っていない横並びの3部屋の間の壁を取り壊して一つの大きな部屋に作り替えるというものである。その施工過程のそれぞれの段階で建築とはふだん関係しないさまざまな分野の団体の人に来てもらい、一緒になにかするという、パブリックリノベーションとでもいえようか、これはそういうプロジェクトであった。

 そして僕らが招かれた今回はそのパブリックリノベーションの最終回。施工はいよいよ最終段階の「補修」にかかっており、その日は内覧会も兼ねていた。そこで僕らがしたのは、内覧を兼ねて俳句を部屋中に展示するというもの、そして異分野の人を混ぜてパティオ北白川を取り巻く環境において吟行句会をするというものであった。展示についてはオノ・ヨーコに由来するインストラクションアートの可能性を俳句に持ち込む狙いもあった。なお会場内には、会員による室内の吟行作品に加え、既存の俳句も一部展示された。是非はあるだろうが、俳句にはじめて接触する当日の参加者への作家や句集の紹介を兼ねていること、そして既存作品を部屋に配置していくことによって新しい読みの可能性を提示するという2点において僕は理解している。

梅雨を祝う椅子の回転を使って 佐藤智子『ぜんぶ残して湖へ』 

上の作品はそのわかりやすい例となるかもしれない。鑑賞者は書かれている内容を指示として受け取り、それを想像(オノ・ヨーコ風に言えばimagine)するか実行することで作品が完成する。この作品においては、実際に椅子に座ってくるくると回りながら、梅雨の曇天を祝福のイメージで思慕することで完成ということになる。

 雪の影響もあって、全体のスケジュールは30分ほど後倒しになった。僕らが慌てて当日の展示の設営をする中、ぞくぞくと参加者が集まってくる。なんとなく参加の声を聞いていた面々はほぼ揃ったかなというところで午前の部がはじまった。企画の全体像としては、まずツアーと称して展示を参加者全員で回りながら鑑賞をし、その後展示を参考にしつつ吟行句会を行うという流れである。以下にツアー中の面白かった鑑賞とともに作品をいくらか紹介する。

セメントに満ち引きありて耕さず 新京大俳句会

参加者:セメントの床に目を凝らしてみると、確かに均一ではなくわずかな濃淡と模様がある。ものを固定する「不動」のイメージのセメントに満ち引きや農耕という「動」のイメージをもたらしたのが面白い。

秋深き隣は何をする人ぞ 松尾芭蕉

濱田:私の隣人は毎晩深夜三時に電子レンジの音を鳴らす。仕事なりなにかから帰ってきてご飯でも温めているのかもしれない。こういうアパートだと隣の家の生活音がものによっては簡単に聞こえてきて、隣人の生活への想像が働く。

 続いて作句の時間が取られたあと句会が行われた。作句の時間中アパートの方では、補修やイベントの手伝いに来ていた大阪芸大の学生の野口さんが当日の来場者のためにおでんと炊き込みご飯を仕込んでくれていた。そのとき僕は鷺の森神社の奥の方をずっと歩いていた。雪が激しく降っていて神楽殿が美しかった。人通りは少なく足跡は深かった。そうして句会の時になっていざ句を並べてみると、昼時を迎えていたこと、外が猛吹雪であったことがあってか、はたして雪とおでんの句ばかりになった。選が多く入ったのもおでんの句ばかりだったと記憶している。空腹がたたみかけたに違いない。

中略(午後の部の様子は会誌「新京大俳句」創刊準備号にて確認できます)

おわりに

 この企画に参加して僕はいろいろと考えることが多かった。たとえば、たまたま「建築」ということは2年前ほどからずっと僕の関心のうちにあった事柄の一つだったのだが、俳句との関連性も多い語だと思う(建築への関心は、親友でありこの会誌の表紙絵を担当してくれた杦浦くんが建築系を志していることにも影響があろう)。風景への強烈なまなざしがあることなどだ。風景を文字化する形式である俳句が、今回の展示では風景と化した建築の中に展示され、文字が風景化したわけである。文字が風景することにはまだまだ考えることが多いと思う。ここに僕は建築と俳句を掛け合わせることの可能性を見ている。なお、僕とカジオと午後から来てくれていた会員の宮本さんとで晩御飯に行ったハンバーガー屋で調子に乗って頼みすぎて苦しみもがいた話は別の話だ。そして僕らの誘いを颯爽とかわしていそいそと家に直帰してファイヤーエンブレムにいそしんだ自称冬の男の話はもっと別の話だ。

会誌「新京大俳句会」創刊準備号購入はこちら(外部リンク準備中)

新京大俳句正会誌創刊に向けた創刊準備号が5月より販売開始となります。関西の若手俳壇の活気が直に伝わる内容になっております。俳句を小難しいものだと思っている方々にもぜひ読んでいただきたいです。

収録内容に

  • 発起人対談(蒋草馬、カジオ・ブランコ、濱田春樹)

  • 会員作品

  • 対談:岩田奎×黒岩徳将

  • 再録:恥ずかしい俳句展

  • パティオ北白川ルポ

  • 会員共同連作


など

5/11文学フリマ東京40にて実地販売いたします。オンライン販売も順次開始いたします。現在準備中ですのでしばらくお待ちください。オンラインではpdfデータをお買い求めいただける予定です。

こちらからお買い求めいただけます

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