22.佐々木紺「夢の構造」
22.佐々木紺「夢の構造」
触れるまで印象の奥の寒菊
夢の構造銀糸かすかにたわみ雪
金貨の女王と見つめあひ冬麗
最新の細胞を載せ冬の皿
friend&enemy 水涸れてゐるあかるさの
寒晴や石に乗る鳥きよらなる
殴られるまへひらく眼や寒卵
襖ひらいて悪い記憶を置いてくる
*(ここから夢)
ゆびさきで沈める真珠冬立ちぬ
(こころを外してみて ねえ みてよ)
硝子拭くときの口笛白鳥来
(呪いが解けるときのしずくがきれい)
寒鯉のゆらりと父も晩年よ
(夢をたくさんみれば戻れる)(どこに?)
*(ここまで夢)
袖振れば霞のうごく絵の向う
或いは父方 貌鳥がちらと来て
白躑躅くしやりと抱き潰す手紙
ひとさらふとき春日傘差し掛けて
当て物で奪ふ心やひなあられ
ゆるやかに藤あばら家を浸しゆく
夜をすべるチュールスカートで夏へ
その死後に針刺すことも濃紫陽花
よき墨のさらりと古び蝉丸忌
緑陰のがらりとうらがへすオセロ
ひとばしら淡雪羹のひらかれて
*(夢)
激怒とは痙攣に似て蝉の翅
(うつつでは怒ることも禁じられていた)
針葉樹あなたを夜が咀嚼する
(スプライシングされてのこる、いい記憶だけが)
これやこの夢にひらきし青簾
造花の列が引きかへに燃え
白さるすべり眠りにおもかげの沈み
*(夢)
よく憎んでやる昏睡の白玉
いわひばり集ひ嚢てふ字の昏さ
かやつり草燃して家族はただの箱
夕蝉のなかはからつぽ逐電す
風死してぴたと引きあふ弓と弦
夕立や好きなエレベーターの匂ひ
育つ感情 小鳥たち降るやうに来る
白壁や蔦が記憶を移し合ひ
よそゆきの布と身の間を素風かな
波は血のなかをつたはり芒原
柳散る切尖に身を反らしあひ
添水鳴りまぶしきものに恋敵
定家忌の花の喩としてひらく指
秋雪の過ぐ盆の面(も)の黒漆
会ふたびに兆す真葛原のありぬ
*(夢)
花札の内外(うちと)雨なるやすらかさ
注射こはくてサテンに雪の香
雪ふりつむ偽史は正史を塗り込めて
黒髪ながれゆく冬の芹
フルーチェの圧やはらかに冬の虹
空をほどいてここまでおいで
*(夢)
閉ぢられて襖が白いだけのこと
実南天打ちぬけてゆく雨の玉
みささぎに后の幼な牡丹雪
死ねば人若きすがたや鳥の恋
こゑ墜ちて地霊のぼればひばりかな
子猫からタオルへ春雨がうつる
半島を雨がさらつて山葵の芽
白梅や素足でおどるポロネーズ
ゆふざくら石彫つて魚あらはるる
春深くハープつまびき変はる指紋
手放しぬ桃源郷を箱に籠め

