15.横山航路「わすれぐすり」
15.横山航路「わすれぐすり」
蝶つぎつぎ生まれる水の再利用
闇/蓬 ひつきりなしのてざはりを
だつた手がすみれを撫でまはす他人
望まれて生まれて朧夜にひとり
死火山を風が光つてこまかい土
ぎりぎりの抽象のさくらとわかる
ゆふぐれをまだ催眠のなかの蝶
しやぼん玉みたく光つて割れないビル
サボテンの片仮名尖りきつて病む
たぶららさ桜は風に脱字して
とほく見て若駒をすぐ好きになる
シャツ真つ白おれは花嫁になれない
目で合図それから風の青岬
薔薇を書く薔薇に壊れやすいことば
涼しさよ活ければ花器になる玻璃の
手に蜻蛉こんがらがつてゐて動く
ジェスチャーが花火とわかるついて行く
Fooo!! 海へラブを叫ぶよサングラス
仕事慣れる噴水上がつては落ちる
下闇にねむたく集ふあらゆる眼
あんりある痙攣が火蛾のやうだよ
うすばかげろふくらがりばかり怖い川
化かし合ふ闇に手花火だけが残る
いうれいのすがたものくろ雨がふる
芒揺れて風の素描となるよ午後
秘密はじまる旅寝の秋の灯を消して
鬼灯をだれに教はるくらみじあ
糸すすき睦言どうしてもひかる
台風に海がふくらむ日のラジオ
サイリュームさよなら夜景になりながら
風さはやか喉に福毛がなんども生え
消えかけてから流星を思ひだす
日は花野蹴られた痣がきみにもある
光ることやめない墓地を露かき分け
寒くなるどの流木をえらんでも
しなしなのぽてとの雪のまばゆい日
賞与といふ長い引き算がはじまる
従ふよ鶴はひるがへらない旗
ホットミルクいつ死ぬかいつ決められるの
雪にはしやげば大人になつてしまふ声
暖房へかざしてホームシックの手
ことばではなく加湿器に水が要る
さんきゆーそのバスタオル好き静電気
morning call 天気を話すうちに雪
はずだつた街へ市民のやうに咳く
ひとり目と思つて火事を知らせる声
母よ会ふたび着ぶくれてゐる絶対
その死後を平気に蜜柑つぎつぎ剥く
またでした橇が壊れて終はる冬
わすれぐすり生まれては死ぬ蝶のすべて

