18.柊木快維「OUR TENSE」
18.柊木快維「OUR TENSE」
そのつどの春を汀は折りかへす
あたたかな雨やこの世を降る限り
多喜二忌のふらここ濡れてゐても漕ぐ
在廊のごとき日永を賜ひけり
くちづけは昏き署名よ鳥雲に
野遊の誰もにいづれ繋がる血
蝶よ心とたましひを縫ひ綴ぢよ
あらかじめ記憶のやうに花の雨
はだれ野やかの灰皿のあまざらし
人死ねば花屋儲かる鳥の恋
燕の巣手紙即赤紙の家
夜吃るやうに夜桜降らしけり
少年をまるごと使ふ蜃気楼
憲法記念日しりとりあつけなく終はる
葉桜や天使は翼から老いて
この薔薇も都市計画のそのひとつ
親しさよ裸足で踏めるものすべて
まだ脳が散らばつてゐる昼寝覚
短夜を生きるとか生き延びるとか
こころてふ幻肢も濡れて水鉄砲
まづ素足狂ふなら透きとほるなら
カフカ忌のサンダルひつかけて会はう
五月雨は窓たぶらかす私小説
蛇つひに母語の塔のぼり切つちまふ
いうれいを組み立ててゐる真顔かな
あやめあやめるなないろのあいますく
六月を鏡のさいはてと思ふ
僕たちの訃のあふれだす白夜かな
いつまでもねむれる百合の瞼なら
鳩の死を驟雨うつとり象れり
百均や白シャツ乾きつつ渇く
どこの誰の棺になつても涼しい木
英霊のくちびるぶ厚くて灼ける
泉まで目隠しされてゐてきれい
虹の晩年なにもない町だけがある
みんなで冷やす抒情の森を抜けた馬
水母ゆゑ空母ゆゑひなたを奪ふ
誘蛾灯ぐらゐの仕組みでも暮らす
裸婦像に糞夥し大西日
グッピーがぷかぷか浮いてゐる自涜
晩夏この胸の埠頭の閉ざさるる
うつうつつうつせみに鍵なかりけり
さあ泳ぎませう心臓を脱ぐやうに
触れてなほ造花うたがふ秋の雨
何色で描いても霧の思ふ壺
使者も死者もわれの花野へ不時着す
PACHINKOのHIKOが光つてゐる秋だ
陰謀論の粘度で口に残る桃
傘買ふと雨衰へる左右盲
全集にあとがきわづか水の秋
萩やどの写真でも曲げてゐるピース
閉ざされた窓ゆゑ小鳥ばかり来る
くるみわるわるざわーるどいずまいん
火恋し付箋に肥らせる聖書
波つねにすでに新たや雁渡る
鶏頭花暴君おほく絵に残り
書くのならみづからの墓洗ふやう
天窓は天と対なす花ひひらぎ
襖の向かうからえいゑんが漏れてくる
凍る噴水それでも集ふこどもたち
火事よ遠くふたりを野次馬に変へる
まなうらに光わづらふ枯木立
千年を森の喃語としてしぐるる
天使みな盲ひて冬の扇風機
耳打ちの息白くそれだけわかる
毛布薄くて僕が絶滅してしまふ
初夢に顔といふ顔略されて
ラガーらは目も口も閉ぢ唱ふなり
天国に国会のある霙かな
凍蝶や拭つても拭つても指紋
総統は鏡の奥を着ぶくれる
溺れゐる白鳥己が血だまりに
うつくしく怒り疲れて冬向日葵
鶴の眼のそつと調律されてをり
逆光の枯野で宿題をしまふ
とほく鮫飼ひ殺すひとひらの不眠
猟犬に晩年といふ力かな
かつて首都だつた瓦礫の山眠る
悴んでゐる一塊の海のうへ
われはわれを娶りたし火のやうな雪
氷柱いまてろるてろると滴れり
風に影ぼくらはかんたんな廃墟
