19.宇都宮駿介「桜のあつた場所」
19.宇都宮駿介「桜のあつた場所」
初ざくら体操服の子ら帰る
人づてに手紙をもらふ桜冷え
歳時記の厚きがうれし桜どき
大学に花見の客が来てをりぬ
留学生連れて教授の花見かな
石垣の石の押し合ふ桜かな
これといふ思ひ出のなき桜かな
公園にベンチの足りぬ桜かな
さつき見てもうなつかしき桜かな
ひとひらを大事に落とす桜かな
撫でられて犬おとなしき花筵
花筵寝転んでゐる人もゐて
花筵酒買ひに酒飲まぬひと
からうじて桜の見ゆる花筵
走る子ら眺むるもよし花見酒
花見舟人乗るたびに大きく揺れ
花見舟外国人の一団と
真ん中を歩いてゆけり花衣
花衣小さき鞄に何入る
花守に写真をとつてもらひけり
大半が遅れて来たり桜狩
見下ろせり花見る人もその花も
花疲れ花疲れとてうれしげに
花疲れいちど車に戻りけり
ちから抜くことが大事とさくら咲く
墓に日の当たる面あり山桜
山ざくら地蔵は何を考へる
本堂へ枝垂桜をかき分けて
よく走る配達員や夕桜
夕ざくら砂場にバケツ残りたる
花盗人逃げるでもなく去りにけり
うしろから照らされてゐる桜かな
駅を出て我が家遠しや夜の桜
夜の枝垂桜は羽化をしてをりぬ
杖ついて犬の散歩や八重桜
橋かかる話なくなり遅桜
遅ざくら句碑どつしりと丘の上
新聞のおほかた読まず花の雨
振り返るたびに桜の散つてゆき
目を閉ぢて桜吹雪の中にゐる
残る花大きな風を待ち疲れ
泳ぎゐる亀の甲羅に花の屑
サドルより払ひ落として花の屑
髪の中より花屑を取つてもらふ
花筏船頭もなく流れゆく
花筏見てゐるうちは崩れずに
桜蕊降る引越しの荷の上に
桜蕊降る屋根のなき喫煙所
新校舎建つや桜のあつた場所
どこまでも桜のつづく道であれ

