21.武田歩「もう脚を」
21.武田歩「もう脚を」
キャラメルのはじめは硬し木の根明く
涅槃会の一人一人を見てしまふ
慎重に差せば崩れぬ桜餅
駄菓子屋に私物の雛の飾らるる
剪定の腕に触れつつ落ちにけり
手に伝ふ給油の震へ朧月
渦潮の柵まで人を引き寄せて
揺れうごく電車の便所花日和
桜蘂降るや赤子に無き利き手
物種が薬のごとく手に出たる
かき混ずる納豆に泡花曇り
饂飩屋に力士の暖簾風光る
スリッパの左右は似たり桃の花
豆苗の骨無く伸びる四月かな
半分が柳の中にあるベンチ
牛乳にシリアルの色庭桜
書く文字は絵馬に吸はれて山桜
春山のホース誰もに使はるる
さみどりのくたびれてゐる鶯餅
切り取りて残る紙あり花水木
茶摘終へまだ摘めそうな畑かな
らしからぬ形の雨の鯉幟
ポケットは野帳の形風薫る
観衆は布に隔たれ賀茂祭
夏服にまち針すつと入りけり
バナナ剥く手に触れてくる皮の先
クリオネの地球に溶けぬための赤
開けども灯らぬ店の冷蔵庫
狛犬のひらける口に蜘蛛の糸
草刈りの四人の違ふ姿勢かな
蠅の脚絡まつてゐる蠅叩
水が水押し出していく水鉄砲
落ち着かぬ水鉄砲のなかの泡
ベンチまでわづかに歩く夜店かな
挿す匙は中で止まれりかき氷
飽きてくるころに濃くなるかき氷
花柄の風鈴混じる中華店
売りきれば閉まる朝市蝉時雨
冷麺の幟に透くる木の扉
祇園会の川に踏み入る人をらず
狛犬に花柄の布雨休み
先端の三つありける茗荷の子
心太直方体の息に吸ふ
もう脚を曲げなくてよい蝉の殻
舟に鵜の遅れてうごく鵜飼かな
山小屋のシーツに青の返し縫ひ
サルビアの蜜の喉まで届かざる
底に人混み合つてゐる大文字
網越しにさはる石鹸涼新た
新盆の海底は藻をつなぎ止め
秋されや鎧の首に蝶結び
小鳥来る防風林に隙のあり
秋旅のシーツに透くる敷布団
生肉に二百十日の指しずむ
秋風邪の唾に切手の丸まれり
ひと束のふたつに割るる稲木かな
病院へ行くにも秋の高野川
廃材に緋色の棘や鵙日和
仏壇にめぐる配線夜の秋
干柿を食べ終へ蔕を持つてをり
電線の集ふ十字路秋祭
汚れたる服も奪はれ捨案山子
茸狩の指の二本の粘りたる
沸くまへに淹るる珈琲秋彼岸
宵寒やまぜそばに浮く酢の気泡
下冷や素手に靴紐結びたる
秋服の袖を捲れど戻りきて
樹皮の樹に張り付く力露時雨
まはりつつ飛蝗流るる用水路
時代祭とほくに車迂回して
南天の葉の落ちて実の残りたる
冬めくや星の名前の夜行バス
葉の付ける枝も放れり朝焚火
賞状に光る角度や神渡
能面の横顔のごと山眠る
餅に粉被さつてゐる雪催
雨粒に匂ひはじめる落葉かな
宅配の腕よりもらふ蜜柑箱
木菟の傾くごとく回る鍵
咳きに雑誌より浮く指の先
闇鍋や窓に灯れる電波塔
黙読にマスクの息の臭さかな
坂をゆく移動図書館霜柱
罫線の並ぶもたのし日記買ふ
溶けかけてまだ二玉の雪だるま
手袋に持つ花束の滑りさう
透明のテープに留まる初御籤
会話無く四列となる初詣
みな犬のごとくに双六を囲む
牡蠣焼くる牡蠣の形に収まりて
バックドア越しに斜めの奴凧
冬日向紙の匂へる土産箱
紙垂一本はみ出してゐるどんど焼き
夜焚火に動かぬ雲の照らさるる
入口にラガーおさまるスタジアム
饂飩屋の床光りたる雪解かな
福豆の袋のなかに割れてをり
石段は人の色なり節分祭
噛むまでは楽しき麩なり春隣
春近し車庫に車の尻見ゆる

