25.田中段波「繰り返す光、人といふもの」
25.田中段波「繰り返す光、人といふもの」
夏来る暗緑色の島を出よ
石像や像ならざるとき夏めく
実際に行ける天竺夏はじめ
豌豆はいつか人間開きたし
かたつむり枯れつつ角を伸ばしけり
直す気のない弾痕や蛞蝓這ふ
這つて出る夢や赤花除蟲菊
桜桃の花なだらかに線路沿い
銀河鉄道に孑孑生まれけり
繰り返し陰りゆく青葉の彼方
他人ふと我が夏草を採りにけり
知らぬ道を教えてしまふ暑さかな
泣くたびに空黒ずんで牛蛙
じやんけんのあひこが嬉し夏燕
人である偶像箱根空木の花
7月の烏線路を眺めけり
白日傘魚暴れる音がする
ハンカチーフ大きな風を待つてゐる
キスのまま終わるドラマやメロン食ふ
天女去りし後のみづうみ冷素麺
かき氷皆に譲つてみれば水
山頂にゐて子供にはかき氷
ビアガーデン孤独に植わる木の名前
標本室より夏料理来りけり
風鈴の囂しいと言われども
夕焼けは水平線を越えて在る
草いきれ地下に白骨あると思ふ
父に会ふ前に我在り沙羅を摘む
姫沙羅・此頃は前世のこと知らぬ
朝焼や小説のあらすじを読む
見習いの給仕褒めたる星月夜
妖怪を惑わす人や天の川
稲妻に目をつむらない人とゐる
秋めいて汝はあどか思ふ秋はじめ
カーテンの皺に魅せられ夜食とる
蚯蚓鳴くいつか打ち解けたい蚯蚓
十六夜の連想悉く断てり
先の世の罪も罪なり赤蜻蛉
蜻蛉生る噂が一寸変わる間に
鶏頭立つ太陽系の最盛期
鶏頭や神社の裏が寺の裏
鮭の口干されてをりぬ歯を下に
コスモスは自分の悪を自覚せり
冷え切つて暫し自認を間違える
遍く光はひとつから秋の冷たさに
隣人の目の前で烏賊干してゐる
山粧ふ学生たちはみな美人
馬肥えて二つの影を持つやうに
小鳥来る名前の書いてある植木
啄木鳥とからだやわらかくして合体
勝手口から裏道に出で石榴
子の服に一匹の鯉柿日和
やや寒く知らぬ異性が恐ろしい
落花生食べるあなたの手に唾液
秋更し割つた大きな皿を思ふ
島国の栄転すずめはまぐりに
古本に簡素な名刺風邪薬
着ぶくれて冬のいのちとして生きる
年末に丸つけてある古暦
アイドルのブレザーほつれ年送る
行く年や水の一滴まだ落ちぬ
オリオンの足 コンビニで全て揃ふ
山眠る義満の書は左下がり
栄転の年になるやも賀状書く
手袋のサイズが合わぬスキー場
うすいひかり浴びて踏絵にこんにちは!
老人の椅子凍て解くやバスの道
明転、暗転を繰り返す部屋猫の恋
鳥雲に入る和も洋もある中華
雁渡る見せたいほどに太い足
約束を破りたくなる春霞
過の拭えぬ土の春蘭咲く
輻輳する屋台の熱や黄水仙
春雲の影で身なりを整える
誰かの飴を百回コピーしたやうな日永
麗らかにひかりは白くばらばらに
口をつけるだけのコップの長閑なり
草餅や平均とつたやうな顔
川底の蝌蚪弟に欲情す
言葉なき会話の終わり梨の花
オーバーサイズの春 海でいちばん泣く赤子
言葉いつしか歌となる栄螺の密漁
俳句的慣習雲丹も抗つているらしい
チューリップ群れの境を守つている
法律の届かぬところシクラメン
シクラメン立って電話に出るときが
囀やどこにも載ってない予定
風車売り神学は愛の味方
水色の風船空に染まらない
液状化してゆく町や朝寝して
春眠る私のものとあなたのもの
春愁の裸足で歩く廊下かな
横顔のよく見える道夏近し
ネモフィラ畑後ろ姿を撮られる人
在れたらいいなそれだけで雲です
目借り時(拡声器)まだ家の中

