10.江村結子「花束」
10.江村結子「花束」
あの牡丹の中をくぐって生まれたい
春めくや左利き直されずとも
諦めて眠りし人よ花ミモザ
春風を満たして肺の広さ知る
雲雀鳴くひとりでも明るくいたい
水面から逃げたがっている春光
春宵に飛行船を探しおり
思うほど子供になれず水温む
古書店の入り口狭し春の雨
バスの両替うまくいかない春の雷
花びらは瞼の薄さ初桜
全球の風の始まり瑠璃の花
翡翠に揺れる水星の朝焼け
捩花やまだ妖精の見える頃
一点透視図法 向日葵に吸い込まれ
百合の花の明度彩度の嘘だらけ
目が合ってどんよりと六月
夏鴨が青空に挟まれている
大揚羽影落ちていて姿なし
ネコバスがいるのよ青田ばかりだし
ただ風鈴を聞いている引越前夜
大葉買う東京に飼い慣らされて
明易し深夜ラジオのアーカイブ
くつ下の跡の白さよ彼も人
波となり粒子となるや夏の月
大花火人よりも遠くへ行ける
カーテンのドレスくるりと秋さやか
黄落は拾われるのを待つはやさ
ジャムサンドクッキー秋晴れのちキャンディ
金木犀言葉のひとつずつに愛
秋蝶の触れれば花となる我も
優しくなってよあの月取ってきてよ
緑のどんぐりと交換してあげる
星月夜の半ば瞳は咲いている
木漏れ日の大粒なるや猫眠る
蜜柑剝いたままの手でなでるのやめて
鍵盤に触れてラになる冬の森
シャンメリー君の無口なとこがいい
図書館経由冬銀河行逃避行
あっち向いてほいつられるままに冬の星
マフラーを夜空に垂らし星拾う
私の部屋に冬夜はこないからおいで
レースカーテンに冬の雷縫い付けて恋
熱々の肉まんで怪獣ごっこしよ
月光の零れて冬の窓に傷
雪光りながら陽だまりへ心中
ここはスノードームのうちがわ雪昇る
その髪を梳かしてあげる冬銀河
冬薔薇の花束をくれたから何
たんぽぽを咲かせるためによく眠る

